Little AngelPretty devil 
      〜ルイヒル年の差パラレル

     “それってあり?”
 


花の季節もそろそろ落ち着き、
あちこちの梢で、新緑が淡色をとりどりに覗かせ始める。
昼間の陽気はともすれば初夏並みとまでなりつつあるが、
陽が落ちれば話は別で。
宵の暗がり、草に宿った露に触れたりすれば
そのままだと軽い寒気に見舞われたりもする。

 「…っ。」

足元周りが光っていたのは、青い月光に照らされただけ。
まだまだ露を宿すよな未明には至っていない頃合いだったし、
そんなことにいちいちおののいた末に
若緑が柔らかく萌える下生えの上から
高々と飛び上がったわけでもない。

 「封印滅消!」

痩躯にまとった狩衣をたなびかせ、
大人の頭上ほどもという常人離れした跳躍で、
うら若き陰陽師様が宙へと舞ったのは、
封印討伐対象の邪妖が苛烈な反撃を加えてきたからで。
一見、綾藺笠を冠した狩り装束の若衆風だった青年が、
山の中で迷った振りを装って、山の民らを片っ端から襲っていたとか。
地の利に慣れぬ身の、貴族の若い衆かと
心から気の毒がった純朴な民らを油断させた悪知恵は許しがたき狡猾さ。
そういう手合いだとあっさり読んで、
邪妖封印の弊を束で持参し、
大人しく眠ってしまえとかかった蛭魔だったのだが、
そこはやっぱり、そう簡単には
人の和子の言いなりにならぬ存在、
せいぜいの抵抗か、鬼のような形相に転じて暴れて見せたので、

 「こりゃあもう
  封じるよりしょうがねぇよな。」

言って聞く相手なら穏当に対処もしたもの、
抵抗するなら力づくででも封じるまでと、
肉薄な口許を釣り上げて、
にんまり笑うと懐ろから掴み出したのが封じの弊。
背中に負うた弓が風を切り、
金の髪をきらきらと夜風に散らすそば、
ひゅうんと唸って素早い所作なの伺わせ。

 《 猪口才な…。》

春の芽生えに刺激され、ついつい揺り起こされた いにしえの精霊か、
それとも太古の魔神の末裔か。
人の生気を食い物としていた危険な存在、
とろりと淡い夜陰の中に、だからこそ悪目立ちする色白な術師の姿を、
もはや…人の肢体に化けた
蛇か魚の変化としか見えない異形のまま、
ギョロリと出っ張った目で追う輩なのへ、

 「二人がかりを恨むなよ。」

 《 …っ。》

何の気配も感じなかった草の原の中から、
さわりと突き出された大太刀の切っ先。
少し長いめのススキの葉のようにしか見えなんだそれが、
音もなく凶悪な存在感を帯びてゆき。
呆然としている人食い邪妖の、ぬらりとした肌へ吸い込まれる。

 《 けひっ!》

何が起きているのか、果たして存命中に理解できたかどうか。
ただでさえ出ていた大きめの眸を
ますますと飛び出させるよに引ん剥いて。
降り落ちる月光に、その陰影をでこぼことまだらに塗りつぶされたまま、
奇怪な邪妖は、輪郭から順に
ほろほろと宙へほどけて消えてゆく。

 「毒でもまき散らすかと思ったが。」

存外と呆気ない滅びようへ、
その存在の核を貫くことで成敗したご本人が
微妙に心外そうな言い様をしたからだろうか。

 「おう、無事だったか?」

相手の消滅を確かめてから、
陰陽師様の方へと声をかけた葉柱へ、

「おう。」

訊かれるまでもないわということか、お返事は短かったが、その分、
おまけにと繰り出された桧扇でのデコピンは結構利いた。

「…お前なあ。」

術師殿からの唐突な殴る蹴るは、
まま、今に始まったそれではないけれど。
案じてやってるのにそれかいと、
今宵はさすがに、
物申すという視線を蛭魔へ向けたれば。

 「判りきってることをいちいち訊くな。」

まずは、すっぱりと言いたいことを口にしてから、

 「それとも…何か?」

そちらも一応の用心か、
邪妖が消えた辺りへまじないの弊を数枚ほど撒きながら、
相棒から一旦視線を逸らしてのそれから、

 「…本当はとっても怖かったんだ、あらぬ魔獣に総身が凍ってしまってな。」

いきなり、しかもどこの誰だと訊きたくなるよな
それはそれはか細い声で
切々とそんな言いようを連ねたそのまま、

 「う…っ。」

不意を衝かれてか、硬直しかけていた葉柱の、
黒い狩衣の懐ろへ飛び込むと、
なあなあ怖かったぞ慰めろと
言わんばかりに頬ずりなぞしたものだから。

 「〜〜〜〜っ☆」
 「うわぁ、蜥蜴でも鳥肌たつんだなぁ。」

誰のせいやら、そこだけは随分と素直に
“感心したぞ”という声を出した陰陽師様だったそうで。

 「あのなぁ〜〜〜。」
 「何だよ、こういうのがお望みだったんじゃねぇのかよ。」

面倒臭い奴だなぁと、
だが、そうと言う割に、
連れの懐ろからなかなか離れぬ誰か様。
頭上におわしたお月様が
声なく苦笑してござった春の宵。




  〜Fine〜 15.05.06


 *更新の間が空いてしまいましたね、
  ごめんなさい。
  そろそろ昼のうちは半袖でもいいほどですが、
  朝晩は油断してると足先から冷えます。
  おやかま様は、いい湯たんぽをお持ちでいいなぁvv


ご感想はこちらvv めーるふぉーむvv  

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